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Git `history fixup` / `reword` 技術調査レポート

発行日: 2026-07-01 テーマ: Git 2.54 / 2.55 で新規導入された実験的コマンド git historyreword / split / fixup)の仕組み・使い方・従来手法との違い・制約の整理

TL;DR

  • Git は「特定のコミットだけをピンポイントで直す」ための新しい実験的コマンド git history を導入した。目的は interactive rebase(git rebase -i)の複雑さを避けて、コミット履歴の局所的な書き換えを簡単にすること。
  • 導入は 2 段階:
    • Git 2.54.0(2026-04-20 リリース)で git history が登場し、reword(メッセージ書き換え)split(コミット分割) を提供。
    • Git 2.55.0fixup(ステージ済み変更を過去コミットへ折り込む) サブコマンドを追加。
  • git history reword <commit>: 指定コミットのメッセージだけをエディタで書き換える。インデックス/ワークツリーに触れず、bare リポジトリでも動く
  • git history fixup <commit>: 現在ステージしている変更を指定コミットに三方向マージで折り込む。実質 git commit --fixup=<commit> + git rebase --autosquash <commit>~1 コマンドに凝縮したもの。デフォルトで対象コミットのメッセージ・作者情報を維持。
  • 最大の特徴は 子孫ブランチの自動リベース。書き換えたコミットを含むローカルの全ブランチが自動で追随更新される(--update-refs=branches がデフォルト)。現在チェックアウトしていないブランチ上のコミットも編集可能で、Stacked Diffs ワークフローと相性が良い。
  • 設計思想は保守的マージコミットを含む履歴コンフリクトが発生する操作はサポートせず、途中で止めずに**中断(abort)**する。フックは実行しない
  • ステータスは EXPERIMENTAL(仕様は変わりうる)

1. 背景 — なぜ git history が必要だったか

Git で「過去のコミットをちょっとだけ直したい」場合、従来は git rebase -i(interactive rebase)が定番だった。しかし interactive rebase には次の負担がある。

  • ベースコミットの指定が必要(git rebase -i <commit>~~ を忘れがち)。
  • todo リスト(instruction sheet) をエディタで編集し、pick / reword / edit / squash などのキーワードを正しく並べる必要がある。
  • ステートフルな多段プロセスedit で止まったら手作業して git rebase --continue、失敗したら --abort… と状態管理が要る。
  • 途中でコンフリクトすると、中断状態のワークツリーに放り込まれる。

「コミットメッセージの typo を直す」「直前のバグ修正を該当コミットに畳み込む」といった単純なタスクに対しては、この仕組みは大げさすぎる。git historyこうした単純ケース専用に設計された、宣言的で状態を残さないコマンドである。

Jujutsu(jj)の jj split などの影響を受けており、split サブコマンドはこれにインスパイアされている。


2. バージョンと提供状況

バージョン リリース 追加されたもの
Git 2.54.0 2026-04-20 git history 新設。rewordsplit を提供
Git 2.55.0 2026-06 頃 fixup サブコマンドを追加。git history 全体は引き続き experimental

fixup を使うには Git 2.55 以降 が必要。reword / split は 2.54 から使える。


3. サブコマンド仕様

Synopsis(2.55.0 時点)

git history fixup <commit> [--dry-run] [--update-refs=(branches|head)] [--reedit-message] [--empty=(drop|keep|abort)]
git history reword <commit> [--dry-run] [--update-refs=(branches|head)]
git history split <commit> [--dry-run] [--update-refs=(branches|head)] [--] [<pathspec>…]

3.1 reword <commit> — メッセージだけ書き換え

指定コミットのコミットメッセージのみを書き換える。それ以外(差分・作者・日時など)は変更しない。

git history reword <commit>
  • 指定コミットのメッセージでエディタが開き、その場で書き換えて、そのコミットの子孫ブランチを更新する。
  • インデックス/ワークツリーに一切触れないため、bare リポジトリでも動作する。
  • interactive rebase と違い、todo リストの管理も多段実行も不要

3.2 fixup <commit> — ステージ済み変更を過去コミットへ折り込む(2.55〜)

現在ステージ(git add)済みの変更を、指定した過去コミットに三方向マージで適用する。

# 例: 過去コミット ghi9012 に対する修正を作って畳み込む
echo "change" >> unrelated.txt
git add unrelated.txt
git history fixup ghi9012
  • 動作は概念的に git commit --fixup=<commit> の後に git rebase --autosquash <commit>~ を実行するのと同等。それを1 コマンドにまとめたもの。
  • 折り込んだ後、後続(子孫)コミットを自動で上に replay し、「修正が正しい位置に入った等価な履歴」で終わる。
  • 対象コミットのメッセージ・作者情報はデフォルトで維持。メッセージも編集したい場合は --reedit-message を付けてエディタを開く。
  • ワークツリーが必須(インデックスからステージ済み変更を読むため)。この点だけ他サブコマンドと異なり bare リポジトリでは動かない
  • 折り込みでコミットが空になった場合の扱いは --empty で制御(デフォルト drop = 空コミットは落として子孫を対象コミットの親に replay)。

従来手法との対比

旧来のやり方 git history fixup
コマンド git commit --fixup=<commit>
git rebase --autosquash <commit>^
git history fixup <commit>
手順 fixup コミット作成 → autosquash rebase の2段階 1コマンド
ベース指定 <commit>^ を自分で書く 不要(対象コミットを直接指定)
状態管理 rebase が途中で止まりうる コンフリクト時は abort(中断状態を残さない)

3.3 split <commit> — コミットを 2 つに分割

1 つのコミットを、選んだ hunk(差分の塊)を新しい親コミットに切り出す形で 2 つに分割する。

git history split HEAD
  • インターフェースは git add -p に類似。hunk ごとに次のようなプロンプトが出る:

    (1/1) Stage addition [y,n,q,a,d,p,?]? y
  • 選んだ hunk を持つ新しいコミットを元コミットの親として作成し、元コミットには選ばなかった hunk が残る。両コミットのメッセージを入力するエディタが開く。作者情報は元コミットから引き継ぐ

  • 子孫ブランチは更新後の履歴を指すよう自動で書き換えられる。


4. 共通オプション

オプション 説明
--dry-run 実際には ref を更新せず、更新予定を表示する。ただしオブジェクト自体はリポジトリに書き込まれる
--update-refs=(branches|head) どの ref を更新するか。branches(子孫の全ブランチを更新/デフォルト)か head(HEAD のみ更新)
--reedit-message fixup)対象コミットのメッセージもエディタで編集する
--empty=(drop|keep|abort) fixup)折り込みで空になったコミットの扱い。デフォルト drop

5. git rebase との本質的な違い

git historygit rebase の劣化版ではなく、別方針のツールとして設計されている。

  1. 子孫ブランチの自動リベース(最重要) デフォルト(--update-refs=branches)で、書き換えたコミットを含むローカルの全ブランチを自動更新する。そのため、現在のブランチ上にないコミットも編集でき、そのコミットに依存する全ブランチが自動的に整合する。これは Stacked Diffs(積み重ねたブランチ) ワークフローを支える機能。

  2. インデックス/ワークツリーに触れない(fixup 以外) reword / split は index・worktree を変更しないため、bare リポジトリでも動くfixup はステージ済み変更を読むため例外)。

  3. フックを実行しない 現時点で git history は githooks を実行しない。

  4. 保守的でステートレス コンフリクトが起きる操作はサポートせず abort。interactive rebase のように「中断状態のワークツリー」に置き去りにしない。


6. 制約・注意点

  • EXPERIMENTAL: 挙動・オプションは将来変わりうる。スクリプトへの組み込みは慎重に。
  • マージコミットを含む履歴は非対応: マージのある履歴を書き換えたい場合は git rebase --rebase-merges を使う。
  • コンフリクトする操作は非対応: 三方向マージでコンフリクトが生じる fixup などは実行されず中断する。
  • fixup はワークツリー必須: bare リポジトリでは動かない(インデックスからステージ済み変更を読むため)。
  • fixup + --empty=drop でルートコミットを落とす操作は未サポート
  • 共有済み履歴の書き換えは危険: git history も履歴を書き換える(コミットハッシュが変わる)操作なので、push 済み/共有ブランチに対して使うと force push が必要になり、他者と衝突する。原則としてまだ push していないローカル履歴に対して使うこと。

7. 実務での使いどころ(まとめ)

やりたいこと 従来 新方式
過去コミットのメッセージ修正 git rebase -ireword git history reword <commit>
直したい変更を該当コミットへ畳み込み git commit --fixup + git rebase --autosquash git history fixup <commit>
1 コミットを 2 つに分割 git rebase -iedit → 手作業 git history split <commit>
積み重ねブランチ全体の追随 手動で各ブランチをリベース 自動(--update-refs=branches

推奨: Git 2.55 以降の環境で、push 前のローカル履歴の軽微な整形(メッセージ修正・fixup 畳み込み・コミット分割)には、interactive rebase より git history の方がシンプルで安全。ただし experimental なので、複雑な操作やマージを含む履歴は従来の git rebase を使い分ける。


参考リンク

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